走馬灯短文

 

仕事帰りに電車へ乗って目を瞑ると、ちょうど窓からの西日がチカチカと入り込み、まぶたの裏側の暗闇に閃光が走る。走馬灯の時はこんな風に線香花火があたりを舞うのかしら、とロマンチズムに浸る。走馬灯と聴くと幼い頃からメリーゴーランドがなぜか頭をよぎるが、実は一度も乗ったことがない。密かに未だに憧れがある、着飾られた白い馬、綺麗な立髪と角、赤い別珍の布を被った背中に乗って、辺りは眩い星が光っては消えて私を送り出すのだ。記憶を駆け抜けたい。アニメの最終回のエンディングで流れる、ワンクール分の総集編のような感じで思い出がスクリーンとして現れるのだろうか。

 

 

猫とか虎が好きだ。悲しくて仕方ない時期、猫を抱えて大学の東屋で泣いたことがある。神聖視している節はある。中学生の時にエッチングで白い虎を彫ろうとしていたが、地震があったあとエッチングの板は行方不明になった。3年前にアルバイトしていたスカジャン屋でもらったスカジャンの絵柄は虎である。自由気ままに生きて最後はひっそりと死ぬ、綺麗好きで潔癖で、疑り深い生き物が好きだ。

 

 

久しぶりに高校時代、一回だけレコーディングしたコピー音源を聴いた。チャットモンチーの風吹けば恋を録音したのだが、まあまあ酷かった。ドラムに対してさほどの熱量を持っていなかった割には完璧主義も相まって失敗するのが嫌で、自分が一番上手じゃないと嫌で、気乗りしないと思いながらも練習した。ドラムに対しては複雑な気持ちがあるが、今となってはもっと上手になりたいと思えるようになった。しかし練習は嫌いなのだが… ドリーム・シアターの元ドラマー、マイクポートノイだかが、ほとんど練習をしないみたいなインタビューを読んで、それなのにこんなに上手いの腹立つ、と思った覚えがある。叩きすぎるとよくない、的な思考らしい。気持ちはとてもわかる。

 

 

香水が好きなのだが、つい最近手に入れた香水が何かの匂いと同じで、でも全く思い出せない。大学生の頃に買った、割とチープでプラスチックの容器に入ってるようなコロンだったような気がする。大きなちゃんとした瓶で買っているわけではないがブランド名こそ有名な香水も増え、かなりかいつまんで楽しんでいる。何個か試して思ったことは、今まで学生時代に買った安めの香水と似た匂いのものが意外と多いということ。これから数ヶ月はどうしてもこの甘くて飴みたいな懐かしい匂いを何と重ねているのか、しばらくモヤモヤしそうだ。

 

 

左上の奥歯の詰め物が取れて、痛い。歯磨きをしていたらコロッと取れて、あれ?と思って吐き出してみると中学時代に入れた銀歯だった。昨年歯医者に行った際に「銀歯は取ってふつうの詰め物にしとくね」と言われたのでてっきり自分の口腔内から金属は消えたと思っていた。まだ銀歯残ってたんだ、という今更な気づきを得たのと同時に、「銀歯でアルミを噛むと静電気が生じてちょっと痛い」という事象を、結局10年ほど銀歯を潜めていたわけだが、一回も経験しなかったなと、ちょっと残念に思えた。

 

 

今年はスキーへ行きたい。運動があまり得意ではないがスキーは好きだ。ギャグではない。冬のシーズンになればスキー教室へも通っていた。自分の板とヘルメットも持っていた。モーグルは苦手だったがスラロームは好きだった。ジャンプ台で失敗して腰を強打してからはジャンプ台を避けるようになってしまったが、それでもスピードが出るものが好きなのだ。地域柄もあるが、スケートも趣味程度だがやっていた。懐かしい。スピードといえば高校時代にバイクに乗りたくて、父がハーレー好きだったこともあり、「私もハーレーに乗りたいので免許を取りたい」と言ったところ、両親に「背がたわん、足が届かんやろう」「ハーレーは重い。自分で起こせないといけないのにできないと思う。」とボロクソに言われた。とりあえず今年はスキーへ。

 

 

初めて料理をしたのは小学生の頃、作ったのはフレンチトーストだった。その後もお菓子作りに興じたり、フワフワのホットケーキを作るのに躍起になったりした。高校時代に母が入院し、まともに「ご飯系」のものを作らなくてはならなくなった。母の入院前、料理を教えてもらったが手際がよくないわ包丁の使い方が微妙だわで「今まで混ぜて焼くだけの料理しかしてないから」と呆れられた。そんなこと言われてもだな。今となっては料理上手枠に入れられることが増えたが、サークルの引退時にもらった冊子の私のページに「カレーと餃子しか作ってなくない?」と後輩からいじられており、「わかる」と思った。

 

 

中学時代、クラスの隣が図書室だったこともあり謎に本の虫になりかけたことがあった。言うほど読んでないので全然虫ではない。森見登美彦湊かなえにどハマりし、特に当時『告白』が映画化されたこともあり湊かなえの小説は読みまくっていた。私が個人的に好きなのは『贖罪』である。何故か図書室には『撲殺天使ドクロちゃん』が当時刊行されていた分全巻が揃っており、途中から興味本位でそちらを読んでいたが、正直どんな内容だったか一ミリも覚えていない。同じクラスの男子ィ〜がエロゲーD.C.』(ダ・カーポ?)のセックスシーンの挿絵を、同級生によって授業中に先生にバラされるという事件の方が100倍記憶に残っている。ちなみに彼はオノマトペの授業の際に先生が「ひらひら、とかコロコロ、とか」と例を挙げたあとにボソッと「サラサーティ」と呟き、突如教室に静寂を連れてきたことがあった。

 

 

授業で思い出したが、高校1年の頃、まだまともにクラスに通って授業を受けていたのだが、当時そんなに学力が高くないクラスにいたため、先生によっては無法地帯のこともあった。特に数学、物理、生物の先生は歳が若かったこともあり、かなり動物園みたいな状態だった。面白い話をしろと振られた生物の先生が、自分の部屋の間取りを黒板に書き出したことがあり、特に面白くもなく、彼女いじりをされて終わった。何故か数学の時間に、トイレにある「音姫」の話になり、すると同級生の女の子が「女のトイレには音姫っちあるけど、男子やったらなんなん?音王子なん?」と言い出して未だに思い出して笑う。2年生に上がる頃には晴れてクラスのステージが上がったのだが、楽しさで言えば圧倒的に一年生の頃のクラスが勝つ。

 

 

高校時代の先生たちは面白く、特に印象に残っているのが古典の先生だった。小学生のころ地球滅亡を信じて休日の学校の校庭で、友達何人かと手を繋いで輪になってその時を待っていたとか、死のうとして冬の道路に横たわり、轢死を目論んだが田舎すぎて車が通らず、寒さにキレて帰ったとか、予備校時代にゲイ映画館と知らずに友達と入りナンパされた話とか、奥さんがなんやかんや好きとか、いろいろな話をしてくださった。面白かった。大学時代の友達の話はなかでもインパクトが強かったが、まさか自分も似たような体験を数年後するとも知らず、15歳の私は「すげーな、大学生」と思っていた。すでに10年経つという残酷な現実。先生がご存命であることを願うばかり。

 

 

思春期にて、人の傷みをわかる人間にならなければと思うようになってから、特に地震を経てから、過敏に余計に人の顔色を伺うようになった。弱音を吐いても「もっと辛い人がいる」と言われた時期だったので、自分を自分の感情を淘汰していかなければならなかった。当時に戻れるなら、悲しみは比較できるものではない、ましてや他者に強要されることでもない、悲しい時は悲しさを感じておこうと抱きしめてやりたい、自分を。家が壊れて転居、転校をし、緩やかに病んでいってしまったのだが、当時たまにお世話になった病院の先生が「勉強ができることと幸せになることの能力は違う」と教えてくれた。その通りだと痛感する日々を送っている。

 

 

またもや中学時代、お腹を壊し、病院へかかった。古い病院だったが腕のいい先生で、青い羽の扇風機と黄ばんだ古いエアコンのある診療室。MDのようなものをヘアバンドでくくりつけた先生がキャスター付きの椅子をシャーッと滑らせ部屋を縦横無尽に駆け(?)、資料を見せながら病状の解説をしてくれた。私はあのシャーッ、が好きで、憧れている。ここ数日隣のデスクと自分のデスクを行き来しなければならず、ここぞとばかりにキャスター付きの椅子をシャーッと滑らせ移動した。10年来の小さな夢叶えたり。

 

 

コンバースが好きで、小学校高学年ごろから大学2回生までコンバースしか買わない、履かない時期があった。時期というか、だいぶ長いな。レモン柄のコンバースと、黒のハイカットの裏地が赤いタータンチェックコンバースがツートップでお気に入りだった。足が割に大きく24cm前後を履くのだが、身長だけは本当に全然伸びなかった。足が大きいと背が大きくなると聞いて育ったのだがあれは嘘だ。でも夫婦の身長差が大きいと子どもは意外と小さい、はいまのところまだ信憑性がある。両親の身長差はざっと30cm程度、母は父と並んで歩く時、顔を見て話すのを早々に諦めたという。ちなみに私は152cmと153cmを毎年行き来している。妹は私よりも小さい。実質私が家族で2番目に背が大きいのだが、世間に出ると自分の小ささを思い知らされる。井の中の蛙大海を知らずということなのか?

 

 

青文字系ファッションが好きで、頻繁に買いはしなかったがzipperとFRUITSが大好きだった。目玉にリボンがついたヘアゴムもちゃんと持っていた(なくしたが)。ちなみにあれは目玉の部分が取れやすいのだ。きゃりーとゆらちゃんが大好きだった。とある号のzipperの付録が、たしかKISSのポール・スタンレーと同じ、目に★マークをつけた猫のダイカットミニバッグで気に入って使っていた。高1の担任の先生が大人しい柔らかい雰囲気をしながらもセックス・ピストルズが大好きというクソデカギャップを持っていたのだが、「私もそれほしい、おばちゃんがzipper買っても大丈夫かなあ」と私にこそっと言うてきて、可愛いなと思った。毎週の個人日誌で音楽の話ができて嬉しかった。